……何だかんだでエヴァンジェリンは未だ授業に出席していない。
あの日の翌日、出席しない二人の件で朱雀に確認してみたら、絡繰は回復まで数日かかるが、エヴァンジェリンは既に回復してるらしい。
……けれど、結局エヴァンジェリンは翌日は教室に顔を見せなかった。高畑先生から体調を崩して休養との連絡があっただけで。
その理由はメディアさんから教えられた、エヴァンジェリンはほぼ24時間常時、朱雀とか私に殺意を振り撒いてギアスで転げまわってるらしい。
メディアさんが呪いをかけたから、呪い発動時は分かるらしいんだが……ほぼ常時呪いは発動してるらしい。
さすがに殺されたくは無いので黙認する事にした、どんだけ怒り心頭だあの吸血鬼。痛みの種類聞いて趣味の悪さに辟易した程なのに、何で我慢して殺意向けられるんだよ。
と言うか、学習能力が無いのか、あの吸血鬼は。
「は、長谷川、今日のお昼ご飯、一緒に行かない?」
後、事件後、妙に神楽坂が声をかけてくるようになった、子供先生がこっちをちらちら見るようになったのは、分からないでもないんだが。
何で神楽坂にまで影響してんのかね。
「別に良いけど……たぶん、大河内と椎名も一緒だぞ、この時期は2人のノート見てやってるからな」
「うんうん、OKOK、このかも一緒で良いかな」
「別に良いと思うが……」
近衛は図書館探検部関連で付き纏われた事もあったが、さすがに二年の3学期にもなると落ち着いたしな。
未だに綾瀬はしつこいが……
後、ノートスルーな辺り、相変わらずだなこいつ……いや、クラス全体が全然そんなこと気にしてないんだが。
実際、HRも近いのに殆どが席を立ってだべってるし。
「皆さん、おはようございまーす」
そんな中、何時も以上のハイテンションで子供先生が教室に入ってくる。
エヴァンジェリンと絡繰の席が空いてるので少し気落ちするが、学校まで来ているのは既に教室の全員が承知済みだ。
と言うか、学園長室か保健室からエヴァンジェリンの悲鳴が聞こえるのが最近の常なんだから当然だろう。
最初はみんな驚いたが。
ネギの味がするだの、こめかみが痛いだの、足の小指を不用意にぶつけた痛みがーとか叫んでるんで。多勢は登校拒否だと結論付けたようだ……絡繰は保護者として、それに付き添ってるイメージらしい。
……いい加減、私達の事は諦めて欲しいんだが、エヴァンジェリンの異常なまでの反骨心を誉めるべきか、メディアさんの呪いの悪辣さを怖れるべきか。
……ちなみに、先日、痛みのパターンに慣れるまでに交換しておきたいから何か痛い経験は無いかと聞かれた……封印状態なら遠隔で痛みの種類を変えられるらしい……
……私も死にたくは無いので、オブラートが喉に貼り付いた感じはとか色々伝えてみたけど……椎名と大河内にも聞いてたので、あの吸血鬼に新たな悪夢が始まるのは確かだろう。
ひとまず� ��委員長の礼に従って先生に向けて頭を下げる。
私は更年期のために何を取ることができます
「えーと、みなさん聞いてください! 今日のHRは大・勉強会にしたいと思います、次の期末テストはもう、すぐそこまで迫ってきています」
……ちょっと見直した、ちゃんとクラスの雰囲気を理解してたのか。
そうだよな、直ぐにテストなのに……このクラスの空気はないよな。
大河内は真面目だからちゃんと勉強してるけど、分からないところを聞くのを恥ずかしがってそのままにする悪癖がある。
椎名に至っては選択問題で何とかしてしまえるという悪癖があるので、2人の勉強は私がチェックしてたんだが。
「あのっ、そのっ……実はうちのクラスが最下位脱出できないと……大変なことになるので~……みなさんがんばって猛勉強していきましょ~~」
……テスト前でも問答無用で出張に行ってた高畑よりはマシかもしれないな。
「はーい、提案提案」
「はい!、桜子さん」
まぁ、魔法使いなんて特殊属性で既に腹一杯だが、大学レベルの学力も間違いではないようだし。
「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと思いまーーすっ!!」
「って、ふざけるんじゃないっ!」
問答無用で椎名の頭に鞄を投げつける……そして、何時ものように運良く小首傾げた椎名は角度よく受け止めて� �鞄は軽く頭を掠めて飛んでいく。
何時も通り、椎名は大して痛くも無さそうだ。
周りからは何時もの椎名の神業芸に笑みを浮かべ。
「はっ、長谷川さん、やりすぎですっ」
……そう言えば、この学期から担任になったせいで、私等のコミュニケーションに慣れてない先生が居たのを思い出した。
いや、一年の初めごろは加減してたんだが……一月後には"普段の"コミュニケーションで引かれないと理解したから好き勝手やってたんだが。
「あぁ、すまない、椎名ならあれくらい平気だと思ったんで、つい」
「長谷川さんならともかく、椎名さんがあんなのをまともに受けたら大変な事に」
「あ、ネギ……長谷川、去年からあんな感じで桜子にツっこんでるから、何時ものことなのよ、最近無かったけど」
一応、新しい先生の前だから自重してたんだよ、さすがに我慢し切れなかったけど。
……後、この子供先生、変なこと言わなかったか? 私なら今のでもアリとか……まさか、あの事件でも平気に登校したからちょっとやそっとは平気とか思ってないだろうな。
「ええと、授業中に突然すいませんでした……ただ、椎名、さっきのは気の迷いだよな、少し、お空の上の幸運の女神様のところに顔出してたんだよな」
「千雨ちゃん? 眼が怖いかも」
……本気だ、本気で言いやがったんだこいつ。英単語野球拳なんて勉強法。
「……2人に報告しておく」
「嘘だよ! 勿論冗談だからね……メディアさんに説教されるのも、朱雀に呆れた目で見られるのも嫌ー」
自業自得と知れ。
「ま、待ってください長谷川さん、いきなり全否定は駄目だと思います。スポーツを取り入れた勉強方法は面� ��そうだと思いますし、生徒の自主性に任せた勉強法もいいと思います」
…………今、この子供先生は何と言った?…………
「よーし、ならやろうか」
なぜ前立腺が成長
「結構楽しそうだよね、ほらアスナ前に出て」
「いやーアタシ脱がされる役に決まってるじゃん」
「そう言えば2-Aの成績表があったっけ、それも参照しておこうかな……」
意見を承認するだけ承認して、背後の喧騒に全く気付かずホログラムか何かで作った立体映像みたいな成績表を覗き込んでる子供先生……駄目だアイツ、早く何とかしないと……
「ほらっ、先生公認だよ、これなら怒られなくてすむ」
「……すまん、頭が痛いから暫く話しかけないでくれ」
「……大丈夫? 長谷川……」
幼馴染2人に介抱されながら脱がされるバカレンジャーの面々と、何故か今になって事態に気付いて慌てふためく子供先生を眺める。
うん、駄目だこのクラス。
今学期も最下位だわ。
その後は普通に授業を終え、寮に戻ると自由時間みたいなものだ。
今は大浴場で浴槽の中で横たわっている。
……少し離れた辺りでバカレンジャーとかが騒いでるから、あんまり穏やかとは言えないけれど……
「……随分長く入ってられますが、大丈夫ですか?」
「相坂か……大丈夫だよ」
ぼんやりと、のぼせ上がりそうになりながら湯船に長く浸かったままだ。
気分転換で入り始めた風呂は、お腹の肉が少し気になったので長風呂になり、後から入ってきた転入生に心配されてしまった。
「そうですか、私はそろそろ上がりますね、長風呂も良いですけど、幽霊にはならないでくださいね」
基本的にポジティブと言うか、何でも楽しい楽しい言う相坂だが、幽霊ほど楽しくないものは無いというのが口癖だ。
なったことが有るのかと聞く勇気は、今の私には無い。
……魔法使いが居るなら幽霊とか妖怪も……あ、学園長がいたか……うん、まぁ、聞くのはやめておこう。普通に肯定されそうだから。
「うぅ……そろそろ私も出るか、HPの更新もしたいしな」
自分の分の勉強は終わってるので、後は椎名の文章系の確認と、アキラの理数系の確認……昔みたいに、あの施設の部屋に集まったら楽だなとは正直、思う。
「……楽だったよな、あの頃……毎日逢えた」
ぼんやりと湯船で、隅に頭を預けて軽く浮かぶようにして全身を伸ばす……大河内も良くやってるけど、気持ちよく。
「気持ちいいよね」
「ぶほっ」
突然、隣から大河内の声が聞こえて溺れかけた。
見れば…………すぐ隣で同 じ よ う に 浴槽の隅に頭を掛け湯船に浸かって足を伸ばして寝そべる大河内。
自慢か、腰周りは変わらないのにカップサイズの違うバストを自慢してるのか。
……水泳の大会とかでアキラの胸が凶器扱いされてること言ってやろうかな。恥ずかしがって自慢する気なんて無くなるだろうし……
いや、悪気も自慢する気も無いんだろうが。
……ちなみに、凶器扱いされた原因は大会の個人メドレー後に男子スイマーの記録が全体的に落ち込んだことらしい。まぁ、アキラの背泳ぎの後には辛いよな、腕を大きく振るからよく揺れるし……それ以降の男子スイマーは殆ど腰が引けていた。
でっかい浮き袋を水面に二つも浮かべてるのに、何であんなに早いんだか。
「……何だか眼が怖いよ?」
左眼の上まぶたのしびれ
「何でもねぇ」
私だって一応はスタイルの良い部類に入り、ネットアイドルとしての評価も高いんだが。
このクラスに居ると自信無くすよな……椎名のやつも何気に私よりスタイル良いし……スポーツとかやった方が良いかな。
チアリーディングはコスチュームとかは気に入ってるんだけどな……今度混ぜてもらうか。
……ふと、考え込んでいると騒いでいたはずのバカレンジャー達がこちらに向かってきていた。
「長谷川さん、ちょっとお話があるです」
……前言撤回、何でうちのクラスはこうも両極端なんだか。
話しかけてきたのは綾瀬、うちのクラスでもトップクラスに……まぁ、可愛いというか幼い体型の少女。こいつでもトップじゃないんだよな。
「むっ、何だか悪意ある視線を感じるです」
「気のせいだ気のせい、何か用か、部活への勧誘なら何時も通り却下だぞ」
後には早乙女に近衛、本屋と。図書館探検部揃い踏みだ。
その後ろにはバカレンジャーも着いてきてるが。
「綾瀬さん、頼りになる人たちって……もしかして」
神楽坂が何だかキラキラした瞳で私を見ている……大河内じゃなくて私を。何だか最近おかしくないか、こいつ。
「はい、長谷川さんと大河内さん、椎名さんは図書館島探索の最深度探索レコードホルダーなのです」
……失敗したよなぁ、学祭の思い出とか言って参加するんじゃなかった、椎名の勘の良さとか朱雀とアキラの体力とかメディアさんの理不尽さとか椎名の勘を舐めてたよなぁ……大事なことは二度言った。
て言うか、普段は中等部以下は地下は入れないのに、学祭中で保護者同伴ならアリって、どっかおかしいよなやっぱり。
ちなみに、5人で参加したため、この5人が図書館島の探索における最深度レコードホルダーになって、部活に入ってない私は綾瀬に狙われている。
大河内と椎名は部活に入ってるからそこまで勧誘されてないんだけどな……
「や、やっぱり凄いんだ」
「私は着いてっただけだ、凄かったのは椎名の直感頼りのルート取りだ」
本当に、突然方向転換とか何度もしたから遠回りだったはずなのに、何で未探査区域の証拠とか手に入れられたんだろう。
……本人曰く、面白そうな人の感じを追っかけたらしいが……後、メディアさんも何だかノリ気だったし。最初は『うちの娘に記録を』と言うテンションが段々……何と言うか、獲物を追う猟犬のノリになってた。『私から逃げるなんて良い度胸ね』とか言ってたし。
「いえ、長谷川さんは図書館探検部の先輩方が何年も解けなかった扉の暗号を解読したそうではありませんか。それも幾つも」
……見た目は古めかしくて難解な暗号らしいが、どれもこれもマイナーなサブカルのネタが仕込まれてたんだよ、アニメの魔方陣とか普通に再現されてたし、あんなの2chに挙げてみろ、即効叩かれるぞ。
と言うか、あんな暗号仕込んだ大司書長とやらの性格を疑うぞ私は。
「一度だけで良いのです、協力していただけませんか」
「パス」
どうも雰囲気的に最深度目指してアタックって雰囲気だ、そんな面倒に巻き込まれたくはない。
「長谷川、少しは考えてあげたら」
「落ち着け大河内……この場に椎名が居ない、こんなイベントにあいつが居ないって事は。この話、間違いなく厄介事になるぞ」
よくよく考えれば今日は妙に早風呂だった気がする。椎名の勘がこの状況を避けたなら絶対に面倒事になる。
「……だったら、尚更だよ、みんなが危ないって事になるよ」
「いや、綾瀬達が諦めれば良いだけの話だろ、絶対危険だぞ、この話」
「待って、長谷川……そんなに危険なのね、止めたほうが良いのね、一般人は行っちゃ駄目な処なのねっ」
何だかどんどん神楽坂が目を輝かせてる気がする。何だこいつ、こんなだったっけ。
「おぅ、やめとけやめと」
「行きましょう、綾瀬さ� �、ますます光明が見えてきたわ、きっとその本は本物なのよ」
……人の話聞いてたかー、バカレッド……
あぁ、湯に浸かりすぎた、ちょっと話の流れも合わせてくらくらしてきた。
「……そう、ですね……確かに危険かもしれませんが、私はこのチャンスを逃したくはありません。バカレンジャーの皆さんの協力を頂けるなら、きっと目的地まで辿り着けるはずです」
……自分もその一員だって自覚はあるのか、バカブラック……
「長谷川、お願いだから協力して。ネギ1人じゃやっぱり不安だし、ここは長谷川の協力が欲しいの」
神楽坂が何故か私をピンポイントで狙ってくる。
何で私だよ、幸運の女神に愛されてる椎名か、気は優しくて力もちを地で行くアキラを頼れよ。
「……長谷川……」
何でそこで私が悪いみたいな雰囲気出してんだよアキラ、お前も乗り気になるな、そこで私の手を取るな。
私を輪に引き入れるな。
「素晴らしいです、私達10人なら、きっと行けます」
私を人数に入れるなーっ……あ、本当にクラっと来た
「行きましょう、図書館探検部 in バカレンジャー & レコードホルダー これならば、必ず行けます」
……もう良い、もう諦めた、お前らのノリに巻き込まれたら逃げられないのは此処二年でよく分かってるよ。
……行き場所さえ聞いてなかった事に気付いたのは、大浴場を出て、のぼせていた頭が冷えてきてからだった。
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